奈良にうまいもんなし

食ひものはうまい物のない所だ。

—— 志賀直哉『奈良』(「志賀直哉全集 第六巻」収録)

 

よく聞かれるフレーズ「奈良にうまいもんなし」は志賀直哉のこの文章に由来すると言われています。彼は奈良市高畑町に自らの設計による邸宅を建て、長い間居住していました。厳しい一言で始まるこの文章ですが、実は奈良県が発行した観光振興目的の雑誌に寄稿したものだったそうです。そう聞くとこの書き出しに一瞬ぎょっとしますが、さすがは文豪、読むうちに彼の奈良に対する愛情・こだわりがじわじわと伝わってくる随筆となっています。

 

奈良学園セミナーハウス 志賀直哉旧居

高畑には今もなお志賀直哉旧邸が残っていて、常時一般公開されています。彼の代表作、「暗夜行路」はここで書かれました。かなり昔に見に行ってみたことがありますが、洋風の食堂と数寄屋造の書斎が何の違和感もなくなめらかに一体となっていて、美しい建築でした。芝生に石製の椅子が置かれた西洋風の庭が、記憶にはっきり残っています。

桂離宮をイメージして建てられたそうですが、ぼくは桂離宮に行ったことがないので比較できないのが残念です。志賀直哉のお財布がとても豊かだったということはよく分かりますね。

 

志賀直哉はその炎上ブログのような書き出しのあとでさらりとフォローをしてくれていますが、奈良県民の立場から正直に言っても、奈良には特に目立った郷土料理がほとんどありません。一応「茶粥」という、ほうじ茶で炊いたお粥があるのですが、これはまあほうじ茶と米があれば誰でも思いつくようなものです。皆さんの想像の範疇を全く出ない、「まあ、そうなるわな」という味がします。どんな料理とも大して取り合わせがよくないので、夏バテのときに梅干しでも載せて食べるのがよいと思います。その程度です。あと奈良だし奈良漬けかな(適当)

 

数年前、ミシュランガイドにたくさんレストランが載ったということで「奈良にうまいものあり!」などと少し盛り上がっていましたが、それ以降は毎年コンスタントに掲載される数を減らされている模様です。ぼくは最新版のミシュランガイドに載っているお店に一つも行ったことがないので、何も語ることができません。残念。

そもそもミシュランガイドに載っているようなお店で出されるお料理は「奈良のうまいもの」と呼んでよいのでしょうか。「そのお店のうまいもの」と呼ぶべきではないでしょうか。そこも気になりますね。

 

貶してばっかりで終えるのも何だったので、一つ奈良名物を紹介しておきます。

ご存じの方も多いでしょうが、柿の葉寿司です。

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数少ない「奈良のうまいもの」ではないでしょうか。

中でもぼくはこの「たなか」の柿の葉寿司が一番好きです。

平宗やヤマトのものよりあっさりしていて、飽きが来ない味です。また、柿の葉寿司の基本ネタである鯖が一番美味しいのがここだと思います。

手広く展開していてわりとどこでも買えるので、奈良に来た際はぜひお立ち寄りください。

柿の葉すし本舗 たなか

 

それでは今日はこの辺で。